税務調査対策マニュアル
はじめに
税務当局は「怖い」というイメージが定着しています。たしかに、脱税をしている者にとっては税務当局は恐怖でしょう。
しかし、まったく脱税などしていない多数の人達や会社にとっては、何も恐れる必要はありません。
警察も似た存在です。
犯罪者には恐怖でしょうが、一般市民にとっては社会生活を守ってくれる頼れる役所です。
渋谷大橋会計事務所は1992年の設立以来、毎年約20件、延べ700件を超える税務調査の立会いを行っています。
この中には査察(マルサ)や資料調査課(リョウチョウ)といった国税最強部隊との調査対応もあり、渋谷大橋会計事務所の伝統である「理論武装」に加え「実践ノウハウ」が蓄積されています。
本書は、税務調査についての正しい知識と理解を持ち、正しい対応のしかたを皆さんに知っていただこうというものです。
これにより税務当局との無用のトラブルは避けて、賢い納税者になっていただくというのが本書の目的です。
税務調査対策というのは「隠す、ごまかす」ということではありません。現行の法体系のもとで最大限に節税することこそ重要です。
節税は積極的に行う
脱税は絶対にしない
税務調査を受ける確率
東京国税局管内の平成21年度の資料によれば次のとおりです。
(1)法人税
〔1〕 | 管内の法人数 | 962,987社 |
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〔2〕 | 実地調査件数 | 41,862社 |
〔3〕 | 申告もれ件数 | 29,271社 |
〔4〕 | 実調率(〔2〕÷〔1〕) | 4.3% |
〔5〕 | 修正率(〔3〕÷〔2〕) | 69.9% → 7割は追加納税 |
〔6〕 | 利益計上法人 〔1〕×27% | 260,000社 |
〔7〕 | 実調率2(〔2〕÷〔6〕) | 16.1% → 6年に1度 |
(2)所得税
〔1〕 | 確定申告書提出者数 | 5,914,000人 |
---|---|---|
〔2〕 | 簡易な接触件数 | 227,597人 |
〔3〕 | 実地調査件数 | 19,748人 |
〔4〕 | 申告もれ件数 | 125,599人 |
〔5〕 | 調査率(〔2〕+〔3〕)÷〔1〕 | 4.1% |
〔6〕 | 修正率 〔4〕÷(〔2〕+〔3〕) | 50.7% → 5割は追加納税 |
〔7〕 | 調査率(個人消費税) | 26,951/273,000 9.8% → 10年に1度 |
〔8〕 | 調査率(土地譲渡) | 15,886/112,000 14.1% → 7人に1人 |
(3)相続税
〔1〕 | 被相続人数 | 218,454人 |
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〔2〕 | 相続税申告件数 | 14,482件 |
〔3〕 | 実地調査件数 | 3,368件 |
〔4〕 | 申告もれ件数 | 2,685件 |
〔5〕 | 実調率(〔3〕÷〔2〕) | 23.2% → 4人に1人は調査を受ける |
〔6〕 | 修正率 (〔4〕÷〔3〕) | 79.7% → 8割は追加納税 |
税務調査を受ける時期と税務調査の流れ
税務調査を受ける時期
税務調査は、ほぼ一年を通し実施されます。
一般的なパターンは次のとおりです。
法人税 | 決算月の反対の月 3月決算法人であれば9月 12月決算法人であれば6月 |
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所得税 | 4月~6月 簡易な接触(電話・書面による調査) 8月~12月 一般調査 |
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相続税 | 通常は、相続開始日の翌年の秋 2011年2月 → 2012年8月~12月 2011年10月 → 2012年8月~12月 |
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大口は、相続開始日の翌々年の秋 2011年2月 → 2013年8月~12月 2011年10月 → 2013年8月~12月 |
税務調査の流れ
(1)税務署より調査の事前通知
(2)調査日の日程調整
(3)必要資料の事前準備
(4)税務調査(1日~1ヶ月)
(5)税務署より調査結果の連絡
(6)修正申告、更正決定、追加納税
〔(7)異議申立て、審査請求、税務訴訟 〕
事前準備
(1) 場所と担当者の選定
場所 | 会議室(調査官を受け入れる場所)を決めます。 |
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社長 | 代表者は初日のヒアリング(10:00~10:30)と最終日の話し合い(15:00~16:00)のみ臨席するスケジュールとします。 |
担当 | 常時対応する経理担当者のほか、調査官から説明を求められた場合の営業、製造、総務の担当者を決めておきます。 |
社員に対する説明 | 一般社員には「税務調査=脱税」というイメージがあります。税務調査は、3~5年ごとに定期的に行われることを説明しておきます。 |
昼食 | 調査官は昼食時は外出しますので、昼食の手配は必要ありません。 |
(2) 提出を求められる資料
全社 | 会社のパンフレット、組織図 |
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現金関係 | 現金出納帳、レジジャーナル、通帳 |
売上関係 | 受注簿、出荷伝票、売上帳、売上請求書、売掛帳 |
仕入関係 | 発注書、納品書、仕入帳、仕入請求書、買掛帳 |
給与関係 | 履歴書、タイムカード、作業日報、給与台帳、源泉徴収簿、社会保険資料 |
経理資料 | 月次試算表、総勘定元帳、業者請求書綴、領収書綴 |
議事録 | 株主総会議事録、取締役会議事録、稟議書 |
契約書 | 売買契約書、取引契約書、賃貸借契約書 (→収入印紙の調査も兼ねる) |
上手な対応のしかた
(1)対応のポイント
査察(マルサ)を除き、税務調査は任意調査です。
対応のポイントは次のとおりです。
- 調査官の言い分をよく聞く。
- 質問に関しては簡潔に答える(余計なことは言わない)。
- 雑談はスポーツなど全く関係のない話をする。
- 所得計算に関係のない資料の提示は、拒否することができる。
- 資料はバインダごと渡さない。不利なものはよく検討してから後日、渡す。
(2)調査の終結の仕方
税務調査は任意調査であり、行政指導です。
自社の見解を伝え正々堂々と税法で議論しましょう。
- 1日ごとに指摘事項に対する会社の見解を調査官に伝え、その日の調査事績に記録されるようにする。
- 話し合いは白黒の決着ではなく、妥協と割り切る。
- 内容によっては交換条件を求める。
- 調査官が上司に説明できる文書(証憑、証明書、嘆願書)を提出する。
- 納得できない場合は、修正申告ではなく更正処分を要求する。
(3)税務調査必勝法
必勝8 ポイント
- 調査官は○○に弱い
- 任意調査であることを常に調査官に確認する
- 税務調査記録表に言動を記録する
- 資料はよく検討して渡す(バインダごと渡さない)
- 納得できない項目は更正処分を要求する
- 社長の臨席は、1 日1 時間までとする
- 大企業の対処のしかたを学ぶ
- 持久戦を楽しむ